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東京高等裁判所 昭和35年(ネ)2152号 判決 1963年3月20日

控訴人 中小企業信用保険公庫

原審における脱退被告 国

被控訴人 東京都建設業信用組合

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用(参加の費用を含む。)は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、

被控訴代理人において、「一、(原判決事実摘示七の補足として)被控訴人が本件弁済契約公正証書を作成した当時、長尾組は柏市との建築請負契約を債務不履行を理由に解除されたほか他の注文者からの請負工事や手形の操作などに次々と蹉跌を生じ極度の事業不振に陥り、長尾組から本件貸付金を当初の弁済期までに完済して貰う見込は殆んどない状態であつた。よつて被控訴人は専ら本件貸付金の回収を確保する目的をもつて、右当初の弁済期における長尾組の弁済義務はそのままこれを維持し、ただ予め右弁済期後における貸付金の未返済分の回収の方法として弁済契約公正証書に記載したとおりの支払方法を定めたのである。(右弁済契約中において被控訴人が長尾組及び連帯保証人の長尾熊一からその各所有の不動産の上に本件貸付金の担保のため抵当権の設定をうけ、且つ両名から債務の執行認諾約款をえたのも、同様の意図からである。)それ故右弁済契約は長尾組において本件貸付金を当初の弁済期に完済しなかつたことを停止条件とする約定にすぎなく、従つて右約定によつて本件貸付金の当初の弁済期をその到来前に変更延期したということになるものではない。なお仮りに右弁済契約によつて本件貸付金の当初の弁済期が一旦延期されたとしても、右弁済契約の他の条項において長尾組及び長尾熊一が昭和三一年九月以降毎月末日限り金五万円宛を支払うべき割賦弁済を一回でも怠つたときには当然右割賦弁済の利益は失われる旨定めていたところ長尾組及び長尾熊一は結局右割賦金を一回も支払わなかつたから、右条項によつて右割賦弁済の利益は失われ、本件貸付金の弁済期は当初の弁済期たる昭和三一年八月三一日に遡及するに至つたものというべきであり、従つて被控訴人は弁済期変更の通知義務を負うものでない。二、また仮りに右弁済契約により本件貸付金の弁済期が昭和三三年一二月三一日に変更されたものとしても、長尾組は同日を経過しても本件貸付金を完済しなかつたのであるから、同日保険事故が発生したものというべく、これに基いて被控訴人は控訴人に対し本件保険金の支払を求める(この場合における保険事故発生通知書及び保険金支払請求書提出などの手続一切は本件訴訟行為に包摂され履践されたものと解すべきである)。」と述べ、後記乙第三及び第四号証の各成立を認め、

控訴代理人において、「一、(原判決事実摘示四の補足として、被控訴人は本件弁済契約をもつて本件貸付金の当初の弁済期における債務不履行を停止条件とする約定であるというが、右停止条件付であることの趣旨は右弁済契約公正証書の文言をみても見出すことができないのみでなく、抑々同一の債務につき既に定められた弁済期における債務不履行を停止条件として別個の弁済期を定めるなどということは法律観念上到底容認できないものである。二、(原判決事実摘示七の補足として)被控訴人は貸付金の弁済期変更の通知義務の懈怠をもつて単なる手続上の手違いにすぎない旨主張するが、融資保険関係においては貸付金の弁済期は保険事故の発生の有無を確定する要件であるのみならず、抑々保険者はそれぞれの時期において、その時点に存する全保険契約の保険価額の総計に保険学上所謂純粋危険率を適用してえた一定金額を予定し、これに基いて資金の手当をしておくものであるが、被保険者が恣に貸付金の弁済期を延期しながら、何らこれを保険者に通知せず、且つ延期前の弁済期の到来によつて直ちに保険事故の発生ありとして保険金の請求をするならば、保険者は保険事故が発生していないのに保険金を支払わせられることになり、かくては保険者の右危険率により予定された保険基金の運用に重大な支障をきたし、到底健全な保険事業の運営をなすことができないことになるのである。(また右通知義務の懈怠が不問に附せられるならば金融機関は債務者と慣れあつて信用保険制度を金融機関の資金操作の道具として利用する弊害を生ずることにならう。)その他信用保険制度の性質上その対象である消費貸借関係のあるがままを保険関係に反映せしめることを要求するものであり、貸付金の弁済期の変更通知義務の違反は信用保険制度の根本にふれる重大な義務違反である。三、(本判決被控訴人の主張二、に対する反論として)貸付金の弁済期が延長された場合、これに相応するよう保険関係を継続せしめるためには、約款第四条により右弁済期の変更があつた日から一四日以内に保険契約者から保険者にその旨の通知をしなければならないが、被控訴人は右手続を履践していないこと前記のとおりであるから、本件において保険関係の継続は認められない。のみならず昭和三三年一二月三一日発生したという保険事故について約款で定める保険事故発生通知書や保険金支払請求書などの提出もないのであるから、この点からするも被控訴人の右主張は失当である。」と述べ、立証として乙第三及び第四号証を提出し、当審証人中村辰男の証言を援用したほかは、

原判決の事実摘示と同じであるから、ここにその記載を引用する。

理由

被控訴人が東京都内の中小土木建築請負業者に対する融資を業とする金融機関であり、昭和三一年六月一日建築請負を業とする中小企業者である株式会社長尾組に対しその請負にかかる柏市立第四小学校校舎新築工事の運転資金として金一五〇万円を弁済期同年八月三一日と定めて貸付けたこと、右貸付は被控訴人が政府との間で中小企業信用保険法(但し昭和三三年法律第九四号による改正前のもの、以下たんに法という。)に基き締結していた融資保険契約で定める保険期間内になされたもので法及び右融資保険約款(以下たんに約款という。)の規定する要件を具備していたこと、同年六月二日被控訴人が通商産業大臣に対し前記貸付の内容を記載した中小企業信用保険貸付実行通知書(以下たんに貸付実行通知書という。)を提出し、これによつて被控訴人と政府間に自働的に約款に基く右貸付についての融資保険関係が成立したこと、長尾組はその請負つた前記小学校校舎新築工事が遅延したため同年七月一九日柏市より右請負契約を解除され、被控訴人は同年八月一七日右貸付金の一部弁済として長尾組に代位して柏市から出来高払による請負工事代金中金二六万六、一五四円の支払をうけたが、前記弁済期の同年八月三一日には長尾組から右貸付金残額金一二三万三八四六円の弁済をうけなかつたこと、被控訴人がこれをもつて保険事故が発生したとして同年九月三日通産大臣に対し保険事故発生通知書を提出し、次いで翌昭和三二年二月二二日同大臣に対し保険金支払請求書を提出して保険金の支払を請求したところ、中小企業庁長官は同年一二月一七日付査定書をもつて被控訴人に対し、被控訴人側に約款違反の事由があることを理由に保険金の支払を拒否する旨通知したことは当事者間に争いがない。

よつて右約款違反の点につき判断するに、昭和三一年八月四日被控訴人と長尾組との間の右貸付金債務につき弁済契約公正証書が作成されたことは当事者間に争いがなく、この事実に各成立に争いない甲第一号証、第五ないし第七号証、第八号証の一、二、第九号証、乙第三号証、原審証人長尾熊一、飯塚家彬、中村辰男、作本清蔵、当審証人中村辰男の各証言を合せると、長尾組は被控訴人から前記貸付をうけたのち間もなく事業不振に陥り柏市との間の前記請負工事を約定期間内に完成することができなくなり、昭和三一年七月一九日前記のように柏市から右請負契約を解除され、これに引続き長尾組は不渡手形を出したり他の債権者から支払いを迫られたりなど逼迫した経理状態に陥つたこと、当時被控訴人は長尾組に対し本件貸付金以外にも貸付金を有していたが、右事情に鑑み本件貸付金についてはその弁済期を変更延期することとし同年八月四日長尾組及び本件貸付の連帯保証人であつたもののうち長尾熊一と協議のうえ右貸付債務のため新たに右両名各所有の土地に抵当権を設定すること、右貸付金の最終弁済期を昭和三三年一二月末日と改め昭和三一年九月以降毎月末日限り金五万円宛を割賦弁済すること、右割賦弁済を怠つたときは直ちに期限の利益が失われ即時残債務を支払うこと及び執行認諾などを内容とする公正証書を作成してその旨契約したこと、その後同月一七日被控訴人は本件貸付金その他の債権者として長尾組に代位し、長尾組の前記柏市に対する前示請負工事代金債権の取立として同市より受領した約金二〇〇万円のうちから本件貸付金に前示金二六万六一五四円を充当回収したが、残金一二三万三、八四六円については前記当初の弁済期たる同月三一日までに弁済をうることができなかつたので、前記のとおり通産大臣に対し保険事故発生日を昭和三一年八月三一日、事故発生日までの回収額金二六万六、一五四円とする保険事故発生通知書及び保険金支払請求書を提出して保険金の支払を請求したところ、昭和三二年四月頃実地調査のため被控訴人方を訪れた中小企業庁の係官から右弁済契約公正証書作成の事実を発見指摘され、右公正証書記載どおり貸付金弁済期の変更があつたのにこれを通産大臣に通知しなかつたのは約款違反であり、変更後は当初の弁済期に保険事故が発生したものとすることはできないなどと告げられるや、被控訴人は長尾組及び長尾熊一と再協議し昭和三二年六月いわゆる起訴前の和解手続により前記公正証書中の弁済期の定めを当初のとおり昭和三一年八月三一日と修正し、かつ右証書中の分割弁済の規定を削除する趣旨の和解をなしたこと、かような事実を認めることができ、右認定に反する証人長尾熊一、飯塚家彬の各証言は採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。しかして約款(成立に争いない乙第一号証による、以下同じ。)第四条によれば貸付後貸付実行通知書の記載事項に変更のあつたときは金融機関はその変更のあつた日から一四日以内にこれを通産大臣に通知すべきものとされており、貸付金債務の弁済期が貸付実行通知書の記載事項であることは右乙第一号証及び融資保険業務取扱要領(成立に争いない乙第二号証)第三の二によつて明らかであるから、被控訴人が前記弁済契約によつて本件貸付金の弁済期を前記のとおり変更延期しながらこの事実を通知しなかつたのは、右約款第四条に違反したものである。また約款第三条第四項第一号によれば保険事故は貸付金弁済期における債務者の債務不履行による回収未済とされているところ(なお同項第二ないし第五号では借入人に破産宣告など特別の事態が生じたときは、貸付の際に定めた弁済期の到来前においても保険事故の発生すべきことを定めているが、本件においてはかかる特別の事態の存在について何らの主張立証もない。)本件貸付金の弁済期が右のごとく延期された以上右当初の弁済期に貸付金の完済がないからといつて保険事故が発生したものとすることはできないから、被控訴人が前記保険事故発生通知書及び保険金支払請求書に右当初の弁済期である昭和三一年八月三一日の経過によつて保険事故の発生があつた旨を記載してこれを通産大臣に提出したのは、約款第一五条第三項第四号後段所定の「金融機関が提出する書類に不実の記載をしたとき。」に該当するものといわなければならず(前記認定によれば、弁済契約公正証書中弁済期に関する約定の記載が被控訴人主張のごとく誤記であつたといいえないことは明らかであり、又その後における前記のごとき和解調書の作成によつて右弁済期変更通知懈怠及び不実記載なる約款違反の責任が消滅せしめられることにならないことは勿論である。)しかして約款第一五条第三項本文によれば、右同項第四号該当の事由があるとき又はその他金融機関が約款に違反したとき(同項第七号)は、政府は保険金の支払を拒否することができるものと定められているから、以上の事由を理由として政府が前掲昭和三二年一二月一七日付査定書をもつて被控訴人に対し本件保険金の支払の拒否を通知したのは正当であり、これによつて被控訴人の本件保険金支払請求権は消滅に帰したものといわなければならない。

もつとも、被控訴人は、本件貸付に際し長尾組から額面金一五〇万円満期昭和三一年八月三一日なる約束手形の振出交付をうけ、その後右手形を書替えるなどその満期を変更したことがないから、上記のような弁済契約を締結したからといつて本件貸付実行通知書記載の貸付金の弁済期に変更があつたことにはならない旨主張し、被控訴人が長尾組から右主張どおりの手形の振出交付をうけたことは前記甲第一号証により明らかであるが、前掲各証拠によれば右手形は本件貸付金の返済債務の履行のため振出されたものであり、本件融資保険は右貸付金について成立し、右手形金について成立したものでないことが明らかであるから(甲第二号証中の手形貸付なる記載は右認定を妨げない。)右貸付金の弁済期に変更があれば当然貸付実行通知書記載の弁済期に変更があつたものとなすべきであり、被控訴人の右主張は採用できない。

また被控訴人は、右弁済契約は専ら貸付金の回収確保の目的に出たものでこれによつて本件貸付金の当初の弁済期を変更しようというものでなく、却つて当初の弁済期はそのまま維持し、ただ予め右弁済期後における貸付金未返済分の回収の方法として右公正証書記載どおりの支払方法を定めたにすぎないから、右弁済契約は当初の弁済期における債務不履行を停止条件とする約定というべく、従つて右弁済契約を締結したからといつて本件貸付金の当初の弁済期を事前に変更延期したことにはならない旨主張するが、前掲甲第五号証(公正証書)の文言その他本件一切の証拠をもつてしても本件弁済契約が被控訴人主張のごとき停止条件付のものとして約定されたとの事実を認めることができないのみでなく、抑々前記認定のごとく一定期日に一括返済すべきものと定められている債務につき右期日の到来前債権者と債務者の合意をもつて右期日より相当後の日を最終弁済期とし、かつ右当初の期日より後の日以降右最終弁済期にいたるまで右債務を割賦弁済すべき旨定めることは、とりもなおさず右当初の期日における弁済義務を解除し、これに代えて新たな弁済期を定めることに外ならないというべく、被控訴人主張のごとく右弁済契約を締結するも何ら本件貸付金の当初の弁済期に変更を生じないなどということは到底できないから、被控訴人の上記主張も採用できない。

また被控訴人は、債務の弁済期の延期は債務者をして履行を円満に行わしめる効果をもつものでこそあれ、決して融資保険における危険を増加せしめるものでなく、従つて被保険者による弁済期変更通知義務の懈怠のごときは些細な手続上の手違いにすぎないから、かかる義務違反により直ちに保険者に免責をえしめるような約款は公平の原則に反し且つ本件融資保険にも適用されるべき商法第六四一条、第六七八条の規定に違反して無効である旨主張する。然し貸付金債務の弁済期を延期すればそれだけ貸付金の早期回収を困難にし、その間債務者などの財産の散逸、経済情勢の変動など保険関係に影響を及ぼすべき危険を増加せしめることは否定し難い(さればこそ本件融資保険において保険料は貸付期間に応じて定められるのである、約款第六条。)のみならず本件融資保険においては前述したように貸付金の弁済期における回収未済をもつて保険事故と定め、保険事故の発生があれば保険者は爾後における残債務の回収をまたず右回収未済額に応じた一定金額(保険金)を支払うことになつている(約款第九条、第一〇条)のであるから、貸付金の弁済期を延期したか否かは保険者の保険金支払義務の発生及び右支払の範囲に重要な影響のあることは明らかであり、弁済期変更の通知義務が疎漏にされるならば保険者の側における保険基金の準備、運用に重大な支障を与えるとともに保険者による保険事故の有無の調査なども誤らしめる虞れがあり、ひいては保険業務の円滑適正な運営を妨げるに至るものと考えられる。従つて弁済期変更の通知義務の懈怠をもつてたんなる手続上の手違いにすぎないなどということは到底できなく、右義務違反により保険者に免責を生ぜしめる旨の約款をもつて直ちに公平の原則に反して無効であるということもできない。また本件融資保険について被控訴人主張の商法の規定がそのまま適用されるものではないと解されるから、右規定を援用して本件約款の無効を主張する所論も採用することができない。もつとも、本件において、仮りに前記弁済期延長の契約の締結がなかつたものとし、その場合においても被控訴人が長尾組より当初の弁済期までに前記金二六万六、一五四円以上の返済をうけることが全然できなかつたであらうことが認められ、且つ被控訴人において右延期にかかる弁済期の経過をまたず当初の弁済期後直ちに本件貸付金の連帯保証人を含む返済義務者全員に対し貸付金の回収を確保するため相当の措置をつくすなどし、従つて右弁済期の延期が右返済義務者全員よりする貸付金の回収の関係においても何ら保険者の不利にならなかつたと認めるべき特段の事情がある場合には、被控訴人の叙上約款違反は結局実質的な違法性を欠くものとなり、かかる約款違反を口実として保険者が保険金の支払を拒むのは信義則上許されないと解すべき余地はあるが、前記認定の昭和三一年八月一七日被控訴人が長尾組を代位して柏市から約金二〇〇万円の工事代金の取立をなした事実などを斟酌すると前掲証人長尾熊一、飯塚家彬の各証言その他本件一切の証拠によつても、当時被控訴人が長尾組から前記金二六万余円以上の返済をうけることができなかつたであらうとの事実を確認することは困難であるし、又被控訴人は、本件弁済契約の締結に際し前記のごとく長尾組及び長尾熊一からその各所有土地につき抵当権の設定をうけ且つ執行認諾をえたりしたが、他の連帯保証人である株式会社朝日組に対しては格別かかる措置をなした形跡の窺われない本件においては、右弁済期の延長が右貸付金回収の関係においても何ら保険者の不利には作用しなかつたなどとは言いきれないから、被控訴人の叙上約款違反行為が実質的違法性を欠如したものであるということもできない。)

さらに被控訴人は、右弁済契約により本件貸付金の弁済期が一旦延長されたとしても、長尾組及び長尾熊一は昭和三一年九月末日以降支払うべき割賦金の弁済を怠つたから、右割賦弁済の利益が失われるとともに右弁済期は当初の弁済期たる昭和三一年八月末日に遡及的に変更されたから結局前記弁済期変更の通知義務を免れることになつた旨主張するが、前掲甲第五号証その他本件一切の証拠をもつてしても長尾組及び長尾熊一が右割賦弁済を怠つた場合、割賦弁済の利益が失われることは別として、右弁済期が当初の弁済期まで遡及的に変更するというような趣旨の約定がなされたとの事実は認められないから、これを前提とする被控訴人の右主張は採用できなく、また被控訴人は右弁済契約により本件貸付金の弁済期が昭和三三年一二月末日に変更されたとしても、同日を経過しても長尾組は本件貸付金を完済しなかつたから、同日発生した保険事故に基き本件保険金の支払を請求する旨主張するが、被控訴人の前叙約款違反を理由とする中小企業庁長官の前記昭和三二年一二月一七日付査定通知により本件保険関係に基く被控訴人の保険金支払請求権が消滅に帰したものと解すべきこと前記のとおりであるから被控訴人の右主張も採用の余地がない。

以上によれば被控訴人の本件請求は失当として棄却すべく、これと同旨に出なかつた原判決は不当であり本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条、第九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 板垣市太郎 元岡道雄 渡部保夫)

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